中西寅雄の蔵書構築(2023/4/29)
- 乙原李成/Otohara Risei
- 2023年4月23日
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中西寅雄(1896-1975)の蔵書は、大正12(1923)年東京帝国大学経済学部助教授任命後、その年の10月から大正15(1926)年7月までドイツに留学したときに集めたものと、日本国内で研究のため買い求め、知り合った研究者間で著作を贈り、贈られた結果集まったものに分けられます。
マルクス経済学が隆盛だった当時の、マルクスやエンゲルス、カウツキーの原書と翻訳。本業である経営学の、シュマーレンバハやニックリッシュの原書。左右田喜一郎、増地庸治郎といった経済学、経営学の研究書、経済学全集を含む洋書約2000冊、和書約1000冊もの蔵書を抱えました。なかには、ゾンバルト„Der moderne Kapitalismus.“のように、著作の参考文献に用いられた洋書も含みます。
もともと和歌山県会議長や貴衆両院で議員をした中西光三郎(1845-1910)の養子に入った来歴から養家をあてにでき、関東大震災後の東京帝国大学図書館の再建や、第一次世界大戦後のドイツ経済が混乱したタイミングで留学したことで、数多くの文献を集めることができました。
東京帝国大学経済学部では上野道輔教授を中心とし、ドイツ留学中の向坂逸郎と中西寅雄が協力して、シュトライザント書店(Hugo Streisand)から購入したとされます。個人でも収集した向坂逸郎の場合、文部省が支給する毎月300円の手当をつかって、同じ書店から購入。親戚が勤めた三井物産の倉庫を借りて保管したとされ、中西寅雄のケースもそれに近いものだったでしょう。
昭和14(1939)年東京帝国大学を辞めてからの、学問上のライバル関係にあった東京高等商業学校(現在の一橋大学)関係者から贈呈された著作や、その後関わった産業合理化や統制経済の関係資料も見うけられます。
参考文献
鈴木鴻一郎「『資本論』(第一巻)の初版本と日本」『図書』(岩波書店)1967年9月号
『東京大学経済学部五十年史』(東京大学出版会1976年)
『中西寅雄経営経済学論文選集』(千倉書房1980年)
『貴志川町史 第3巻』(貴志川町1981年)
裴富吉「経営経済学の生成事情」『大阪産業大学論集.社会科学編』(大阪産業大学学会)1996年5月号
「回顧:向坂逸郎氏の蔵書について」『大原社会問題研究所雑誌』(法政大学大原社会問題研究所)2001年8月号
大村泉「日本における『資本論』第1巻初版(1867)オリジナル刊本の蒐集と1920年代のマルクスブーム」『マルクス・エンゲルスマルクス主義研究』(八朔社)2019年6月号
吉原努「あの人の蔵書 中西文庫」『国立国会図書館月報』2022年12月号
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